花鳥風月記

流れる水に文字を書く

港 千尋 『書物の変―グーグルベルグの時代』

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近年書かれた、様々な論考をまとめた一冊。

掲題の文章は、前半部に重きがあるようだったが、
この本全体を通じて、人がモノという「メディア」に対する
視線を追っているような印象を受けた。

ただし、いくつか書評や美術展に対してのコメントが掲載されているので、
それが分からないと、やや厳しい。

しかし、「書物の変」に関しての論考だけでも充分に考えさせられることがある。
技術革新に詳しくはないが、i-Padやkindleといった電子書籍の誕生によって
新たな時代に入り、それが何を意味するかを、警鐘も込めて書かれている。
一番気になったのは、電子書籍自体が管理されたもの、ということで、
かつて書籍の持っていたモノとしての存在価値がなくなることに不安を感じる。
つまり、「焚書」「禁書」というものがなくなることが
実はかなり危険ではないか(管理されやすい、という意味で)と感じた。

かつて、グーテンベルグの印刷技術によって、様々な書籍が世に駆け巡り、
古くは宗教改革、新しくは東欧革命に威を放ったが、
それがいまやグーグル(もじってグーグルベルグ)にとって変わられようとしている。
検索の手軽さや、情報の早さ。
それはイコールで管理のしやすさと、保存のための莫大なエネルギーを求められる。

いずれにしても、部屋に溢れ・まけ出ている本をうらみつつも、
あることへの安心感を感じる日々を送る者としては、
あらたな「持たざる者」への恐怖を感じないことはない。