花鳥風月記

流れる水に文字を書く

毎日小学生新聞編 森達也著 『僕のお父さんは東電の社員です』

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東日本大震災、そして福島の原発事故から
世間から指弾を受ける東京電力に勤める父親を持つ、
小学4年生のゆうだい君からの投稿を受けた毎日小学生新聞
繰り広げられた議論を整理した一冊。
森達也が解説というか、論点整理を行っている。

毎日小学生新聞を購読する、ということからいうと、
きっと所得層的には、豊かな人が多いだろうし、
この議論のなかに、現地の人の投稿があるかどうかも分からない。
論は論として空中を飛び交っている感じがした。

特に小学生の投稿のほとんどに、放射能対策にひまわり等を
植えると良い、と書かれているのは、きっと学校かこの新聞で
知った内容なのではないかなあ、と思う。
意見の内容はともかく、どことなく均質化されているような議論で
何か物足りない感じもした。

しかし、森達也の解説は、説得力があった。
短い言葉でしか許容できない、現代の人々に
しっかりと紙面を割いて書いている。
それは、本人の弁解ではなく、反省の弁も交えて…。
長く骨太のルポルタージュを追い続けている人物の
ひたむきなところが伺える。

意見の是非は勿論、結論はない。
「父親が東電」「東電の息子」が今後どういう見方・偏見となるかも分からない。
「泥棒の子は泥棒」という乱暴な意見は絶対に排しなければならない。

でもね、ゆうだい君、
君は「東電の息子」であることから逃げられない。
君にとって大事なのは、それをどう抱えて生きてゆくことだと思う。
それは身に降りかかる偏見を誰かの手によって、ということをアテにせず、
君自身がこれからの人生のなかで何とかしていかなければならないことだ。

もちろん、そこから逃げても良いと思う。それも生き方だ。
今から一生懸命勉強して、東電に入って名誉を挽回したって良い。
誰かの言葉に振り回されたり、傷つけられたりすると思う。
でもその痛みは、きっとゆうだい君にとって必要なことだと思う。

君自身が、何かになった、何者になったということは、
世間に明らかにする必要は決してない。
ただ、現代と格闘する一人としてしっかりと生を全うしてほしい。
この議論に参加することすらできない人のことを考えて…。