花鳥風月記

流れる水に文字を書く

ハンナ・アーレント

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新宿のシネマカリテにて。
パンフレットを買ったら、慣れた質感がして、
良く見たら、岩波ホールのものだった。

駅に近く、良作を上映しているので、今後も期待。

全体主義の起源」で有名なユダヤ人哲学者が、
ナチの残党のアイヒマンの裁判をイスラエルで傍聴し、
その記事を「ニューヨーカー」で連載して物議をかもした
経緯を活写しつつ、その投げた一石が、
彼女の人生と、第二次世界大戦という湖面に大きな波を作った。
そんな作風だった。

アイヒマンは「史上最悪の極悪人」であったか。
裁判でのなりふりを見て、大きな疑問を抱いた。
彼が、強制収容所(果てはガス室)送りを
なんのためらいもなく行えたのは、彼が極悪人でなく、
職務に忠実な、ごく普通の気の小さい人間であり、
最大の問題は「考えなかった」ことにある、と断じた。
その伝わり方が、一方で「擁護的」と被害者側(ユダヤ人)に
受け止められ、ある意味狂気じみたバッシングに遭う。

頭では分かりつつも、理解できない。
そういった同時代人が多かったのではないかと思う。
思索と記憶、それも生々しいものの両立は難しい。
身近にいる存在が犠牲者であれば、なおさらのことである。

それを超えようととする、ハンナ・アーレントはすごいと思うが、
やはり理解までには、長い時間が必要だったのだろう。

主役は、かつて「ローザ・ルクセンブルク」でも主演した女優。
昔、観た記憶がある。
作り手と演じ手の哲学もまた、感じた映画だった。