花鳥風月記

流れる水に文字を書く

ミリキタニの猫

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渋谷ユーロスペースにて。
割と客の入りが良く、中は蒸し暑かった。
今日はプロデューサーのマサ=ヨキカワのティーチ・インがあった。
ミリキタニ(日本名で三力谷だそうだ)は、NYのストリート・アーティスト。
自ら「グランド・マスター(巨匠)」と称し、街中で絵を描いて、生業としている。
寝床は韓国人スーパーマーケットの店先を間借りし、ある意味で、「街の優しさ」で暮らしている。
監督のリンダ=ハッテンドーフは編集者の仕事をし、ミリキタニの寝床の近くのアパートに住んでいた。
猫好きが元で、彼の絵を買い、ビデオを撮ることで、知り合いとなる。
2001年9月11日のNYテロ事件をきっかけに、彼の寝床が危険にさらされるに至り、
リンダは、80を迎える老人を自宅に招き入れる。以来、5ヶ月に渡り、彼の半生を知り、
日系アメリカ人の強制移住・強制労働という歴史を知る。その間、彼の市民権があることを知り、
最後は、高齢者福祉のためのアパートに移り、やっと「世間なみ」の生活ができるようになる、
というストーリーになっている。また、強制移住された土地に行くシーンもあり、
ドキュメンタリーでもあり、ロードムービー(多分に人生というロードも含むが)仕立てになっている。
ミリキタニ自身は、日本をものすごく「良い国」というイメージが膨らんでいる。
調子っぱずれで唄う「北国の春」や「奥飛騨慕情」など、は50年間抱き続けている日本への
憧憬と見て取れる。ちなみに50年もいないのに、この演歌を知っているのは、恐らく、
ストリートに出る前は、普通に働いた時期があり、そこで聞いていたのでは、とのこと。
それにしても、リンダの心の広さには、驚く他ない。
ストリートの人間の持つ「臭い」はどうだったんだろうか、と思ってみたりした。
ただ、この映画の中で言えることは、他民族社会という中で、競争原理のみではない、
ある意味で、肩を寄せ合い支えあう市民社会の根強さが見て取れる。
先日観た「シッコ」とは別のアメリカ社会の一面だが、
まだまだ市民のもつ「強さ」が感じられる。
ミリキタニは今年の夏に来日を果たした、とのこと。
バラック平屋建ての広島の街が大きく変わったことに驚いているようだった、とのこと。
彼は、骨は日本に埋めたいが、アーティストとしては、NYで頑張る、とのこと。
やはり「巨匠」だ。