花鳥風月記

流れる水に文字を書く

接吻

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渋谷ユーロスペースにて。
先週から封切のわりには、客の入りは今ひとつ。30人くらい。

ストーリーは、一家惨殺事件のニュースを見た一人の女性が、
その殺人犯に共感と恋心を抱き、それを見守る弁護士との
三人の絡み合うストーリー。

一つの着想を基に、オリジナルで脚本を書いたらしいが、
どっかで見たような筋書きだ。

映画のクオリティは、正直に言ってしまうとVシネマレベル。
といっても、決してVシネマを観たことがある訳ではないが、
どこか中途半端な印象が拭えない。

考えながら作る・配役に華を持たせる・撮影しながら内容を変える。
作品が駄作になりかねない「方程式」にはまってしまった感がある。
何か勿体無かった。

まず、殺人犯(豊川悦司)のもつ残虐性と純粋性のコントラストが
今ひとつ表現し切れていない。純粋性で繋ぎあう恋愛と、
罪の残虐性に狂喜し、やがては苦しめられる姿をそれなりに
演じているものの、そのトラウマが2人の関係をどう変えていくかの
「掘り下げ」がなかった。

主人公(小池栄子)は、自分が持たれるイメージから離れて演じることに
力を入れすぎていたような気がした。たしかにストーリー的には、
もっと不健康で病的な人間の方がよかったかもしれない。
それにしても、気になったのは、各場面とも「引き」のシーンが多く、
それぞれが実際に向かい合って話すことが少なすぎる。
それも表現の手法と言えばそれまでだが、なにかぎこちなさを感じた。
(篠田三郎がそれにつられて、今ひとつなじめてなかった。どうしたタロウ!)

最後のシーンが、この映画の「売り」であり「キモ」であるらしいので、
ここでは内容は差し控えたいが、正直に言うと、設定に相当無理がある。
ビジネスマナーを備えない弁護士・主人公の挙動を眺めるだけの看守というのも、
現実では起こりえない。

やはり、しっかりと個性を確立した「脚本」がないとだめなんだなあ、
と思った映画だった。

しかし、ヴァイオリンの向島ゆり子さんの奏でる旋律は、
ストーリーに緊張感をもたらし、素晴らしかった。
これだけが救いだった。