花鳥風月記

流れる水に文字を書く

長江哀歌(エレジー)

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恵比寿の東京写真美術館にて。
原題は、「三峡好人」英語名は「STILL LIFE」。

確かに劇中に哀歌らしき感じはなかった。
唯一、それらしさを感じるのが、子供が朗々と唄っているシーン。

中国の「万里の長城」にも匹敵する「三峡ダム」の建設をめぐって、
静かな自然と、劇的に変わりゆく(そしてそれは殆どが破壊)風景が
重ねあうように編みこまれている。

そして、妻と娘を探す主人公や、それを脇で支えるサイドストーリーが、
日常と喧騒を対照的に表現している。
印象的なのは、ダムに沈む街の中で、強制退去・取り壊しに
ペンキで「拆」という字を丸で囲むシーンだった。
これは、ヒットラー時代のユダヤ人狩りを彷彿とさせる。

理解に苦しむシーンもあった。奇妙な形の小学校?が
いきなりジェット噴射して飛んでいったり、
解体現場で、いきなり綱渡りをする人間が出てくる。
ある意味、配給のオフィス北野が好むような、
奇妙なギャグセンス、なのだろうか?

オフィス北野が好むような、というところでもう一つ気になったのは、
やはり配給を決めた「決め手」は、やはりパンツいっちょのオッサンが
多数出演しているせいだからなのか、と思った。

見に来ていたおばさん連中は「きれいだったけど、よく分からない」と
口々にしていたが、街が、というより、一都市が、ダムの底に沈む
ということから、ほんとうは分かりえない世界なのかもしれない。
「2000年続いた街が、2年間で沈む」
「第二期工事では、水深は159メートルまで上がる」
考えてみたら、現実の世界こそがフィクションに思える。