花鳥風月記

流れる水に文字を書く

西原理恵子 『この世でいちばん大事な「カネ」の話』

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ファンでありながらサイバラ本は、
あまり取り上げたことがなかった。

今回は、これまでの半生をまとめたような、
そして恐らくは子どもたちへのメッセージとして
この本を出したのだと思う。

書き下ろしというより、きっと本を出すために話を重ねたのを
誰かがリライトしたのだろう。
今までの作品(『上京ものがたり』『女の子ものがたり』『営業ものがたり』)
のシーンが随所に想起され、親類というか、すごく親しい人の
話を聞いているような錯覚におちいる。

貧しさ、って共感できる反面、
いやあ、ここまでではなかったなあ、と感じてみたり。
サイバラファンのほとんどが、そういった共感と驚嘆の合間をゆれ、
かつ、それを笑いと「じんわり」で心を和ませるような魅力を感じている。

日本人の持つ「美意識」に含まれる胡散臭さを、
サイバラは、「カネ」の話で喝破している。
大人のカネにまつわる「汚さ」も、
実は、こどもの頃にこじらした病気のようなものではないか。
だからこそ、子どものころから、おカネに対して
しっかりと現実を教えなければならないし、
「働く」「外に出る」ということの大切さを伝えなければ、
という想いが語られている。

また、世界にある「貧困」を、子どもの姿を通じて
心に、身体に刻んでいる。
絶対的な貧しさ。変えようのない人生を送らなければばならない現実。
最後には、グラミン銀行にも触れ、「もらわない」人になることの
大切さも伝えている。

しかし対極的に豊かであるはずの日本も、
居心地の悪い現代社会を「カネ」という視点で分析している。
それも、視線は低く、人に響くような言葉で。

この本では、サイバラの「強さ」の源が書かれている。
読む人間の背中をドン、と押すような力強さも感じる。
それは、サイバラ自身が、弱い立場の人間と一緒に居続けたことが
彼女の身体を伝わって語らしめているのではないだろうか。
真面目キャラを決して快(こころよ)しとしないが、
今回は、きっちりと語った本になった。

一家に一冊、いや一人に一冊あっても良いんではないかと思った。