花鳥風月記

流れる水に文字を書く

日本国憲法百景 (94)

記録と記憶のはざまで

広島県のとあるダムのほとりに木製の船が乗っかっている。
その船は、ダムの湖底から浮かび上がり、曳航され、乗っかったもの。
「船頭多ければ船山に登る」をことばどおり再現した。

昨年観た映画の中で、もっとも印象深かったのが、この記録映画、
「船、山に登る」である。
ダム建設計画が決まり、湖底に沈む村の記憶を残すため、長い年月をかけて
村の木を組み、船を作る。
ダム建設には「試験湛水(たんすい)」というものがあり、
一旦、ダム一杯に水を張る。その機会に船を浮かべ、
ほとりの小高い丘に船を乗り上げる、というもの。

その静かに流れる雰囲気の中に、
生活を追われ・または変更を余儀なくされる
人々の儚(はかな)さと強さが交差する。
大木を残そうと植え替えをする時に、
はからずも、土・水をかける人から出てきた
「おまえも頑張れよ」という言葉が
自然と人を繋ぎ合わせる大切なメッセージであることを感じた。

いつともわからない国家の計画のなか、
ただ抗うだけではなく、
静謐で、雄弁なメッセージに
思いを馳せ、心に刻まれる。


第九十五条 一の地方公共団体のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、
      その地方公共団体の住民の投票においてその過半数の同意を得なければ、
      国会は、これを制定することができない。

※第八章は「コンパス」と読み替える。