花鳥風月記

流れる水に文字を書く

川上未映子 「ヘヴン」

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群像8月号に掲載されていた。

斜視でイジメを受けている主人公と、
不潔な身なりで同じくいじめられているコジマの
こころの交流を描いている。

川上未映子の特徴でもある、畳み掛けるフレーズの数々は、
今回は、短い手紙になって描かれている。
主人公が、今と学校を絶望的な距離感であることを、
例えば「先生」ではなく「教師」と呼び続けている。
「医者」については、最後の方で、「先生」とつけていたが、
これはやはり心の距離感が近づいたことを表していると思う。

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「小説って、基本的に人間の人生の色々について書かれてる
んでしょ? でも俺にもおまえにも、つくりものじゃない手
持ちの人生がすでにあるっていうのに、そのうえなんでわざ
わざよそからつくりものを持ってきていまさらそんなものを
うわ乗せしなきゃならないんだ?」(70ページ下段)
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小説でありながら、自らそれを否定する力強さ。
思惟(しい)し、書き・読むことで逃げ込む空間に対する警戒心を
決して解かずにいるのは、やはり川上自体が、何か一線を画したいのだろうか。
にしても、この言葉は重い。

主人公とコジマ、そしてイジメグループの最後のシーン。
自分のもつ世界と、自分の取り巻く世界との悲劇的な格差は
「わたくし率 イン歯ー、または世界」に共通しているものがある。

何かに救いがある、というよりも、
行く先のみえないSTAIRWAY TO HEAVENを
黙々とよじ登っていくしかない、
そんな後味の生臭さが残った(それが持ち味)作品だったと思う。