花鳥風月記

流れる水に文字を書く

高嶺 格 『在日の恋人』

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7月にあった東京国際ブックフェアで購入。河出書房新社

まず、驚いたのは、タイトルが2003年に行われた
京都ビエンナーレでの作品の名前であり、
その作品とは、京都の山奥?にある、マンガン坑の中、ということであった。

筆者が、洞穴で作品を、と考え京都のマンガン記念館に足を運んだのが、
この本のスタートとなる。
筆者の恋人が在日でもあることから、この作品のモチーフが生まれた。

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「あなたのその、在日に対する嫌悪感は、なんやの?」とKは言った。
僕はその質問に答えねばならなかった。
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本の帯にもあった言葉だが、
人(ひと)を、家族を、社会を、国(くに)を、国境を、いろいろな事を考えつつも、
決して頑(かたく)なにならず、背伸びせずに書いている。
感性に正直で誠実な芸術家であればこそ、書けるのだろう、と感じた。

所々に載っていた写真は、見たときは「?」だったが、
読み進んでいくうちに理解できた。

現代美術が求めている政治的メッセージ性というものが、
決して空回りすることなく、また、露悪なこともなく
この本には、美しく書かれていた。

残念なのは、このマンガン記念館は今年5月末で閉館し、
実際に観に行くことができないということ。
もう少し早く、この本に出会っていればよかった。