花鳥風月記

流れる水に文字を書く

山崎ナオコーラ 『ここに消えない会話がある』

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表題の小説と短編「ああ、懐かしの肌色クレヨン」が入っている。
職場小説とは聞き慣れない言葉だったが、確かにごく小さい
机が六つ並んだ「島」を舞台とした物語。
表紙の次に、厚めの紙が折り込まれていて、それを広げると、
登場人物の位置を確認しながら読めるようになっている。便利?

登場人物が、特徴的、というよりも
ありふれた人物像から、何か違いを見つけた程度の差異。
それが雇用形態や人間関係を階層的に書き綴っている。

そこには、若い人特有の厭世観が充満し、
「死」という結論には勇気がなく、
何となくすぎてゆく。

終わりは、「辞職」という職場小説での「死」が
彩(いろど)りをそえる。
彩りと書いたのは、決してそれが暗いものではないからだ。
まあ、ありがちな「明るい絶望感」とでも言うのだろうか…。

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他愛のない遣り取りが ビルの十階で泡のように生まれ続ける

机の島に言葉の波がうち寄せる

働くとは 毎日を詩を詠んで過ごすことだ

会話の泡は球体のまま冷凍保存されて

氷河の中のマンモスのように一万年後に伝わる

人間が消えても 宇宙の重さは変わらない

登場人物が死んでも 会話は残る


この場所は永遠だ
                 (83~84頁)
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「ああ、懐かしの肌色クレヨン」は、淡い失恋を描いたものだが、
「肌色」という言葉の重みを感じつつ、ふわふわした印象が残る。
竹橋での展開は、結構リアルで、カレー屋はきっと「タカサゴ」だろう。
たしかにあの界隈だと、ほのぼのした情景になるだろう。