花鳥風月記

流れる水に文字を書く

日本国憲法百景・再び (11)

永久の権利

彼が目を覚ました時、世界の異変に気付いた。
どことなく空気が湿っぽく、足元は見たことのない石に覆われていた。
後で聞いたら、それは「アスファルト」というものだった。

聞いた事のない言葉が聞こえる。
それは「日本語」というようだ。不思議なことに、言っていることが分かる。
足を引き摺りながら、突然飛び込んできた無機質な景色の中を歩く。

ガラスごしに見える自分の姿には変わりない。
誰もが奇異な視線を送りつつも、ほどなく無関心になるようだ。
確かに彼のような黒い肌も、白い肌も周りにいる。

彼が驚いたのは、その色とりどりの肌が、同じ空間にいる、ということだ。
彼が浴びた銃弾は、その色に抗して駆け抜けた時のものだったが、
ここでは、そんな物騒なものをぶら下げるものは、いない。

彼は知りたくなった。この国はどんな国なのだろう。
彼は図書館を見つけ、ある本を開いた。
知るはずもない言葉がなぜか分かり、その言葉を目にしたその瞬間、
天地がひっくり返る思いになった。

ああ、そうなんだ、と。

静かな空気が支配するなか、クンタ・キンテの笑顔と涙は止まらなかった。


第十一条 国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。
     この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない
     永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。