花鳥風月記

流れる水に文字を書く

伊坂幸太郎 『SOSの猿』

イメージ 1

西遊記』のストーリーを土台に、伊坂独特の世界を紡ぎ出している。
他の作品とは少し留保事項が要りそうだ。
先ず、新聞小説であること。よってまとまってはいるけれど、
途切れ途切れの感がある。きっと文庫化される場合は大幅加筆補正があるような気がする。
次に実験的な要素があること。
漫画家の五十嵐大介とのコラボ作品らしく、マンガも2月に刊行予定。
そういう意味では、冒険的な要素がある。
そして『西遊記』とは何か?
かなり穿(うが)った見方だが、連載した読売新聞で思い出すのは、
日テレ系列でかつて放送された「西遊記」を思い出す。
以後、TBS?でドリフの人形劇、近年ではフジテレビで香取慎吾が扮していた。
小説のその雰囲気は、どちらかというと堺正章孫悟空(もっと動物的だが)をイメージした。
なんかちょっと「箱に収めるために、工夫した」あとが散見され、
今までのような縦横無尽さ(それはきっとここでいう孫悟空の暴れっぷりのような)が
影を潜めていた。

しかしながら、設定の面白さは相変わらずだった。
主人公の2人(悪魔祓いの資格を持つ男と几帳面すぎる男)や、登場人物の絶妙な関係、
引きこもりと、株の誤発注による大損害、交通事故などの事件。
神出鬼没に現れる孫悟空と、どこかでつながる「西遊記」の逸話。
(「西遊記」を知らない人にも分かるようになっている)

そして普通に読み進めたら、それに時間差があったり、
空想の世界であったりして、読み手を惑わせる。

そして大団円は、出てきた全てに関連があり、軟着陸を果たしている。

いくつも作品を読んでる人からは、物足りなさを感じることもあろうかと思うが、
ちょっとずつ、時間を置いて読む場合には今回は都合が良かった。
(実際、年末年始が忙しかった自分にはタイミングが良かった)

決してベストではないが、良い作品だったと思う。