花鳥風月記

流れる水に文字を書く

海炭市叙景

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渋谷のユーロスペースにて。
地下から2階までは、映画館がなくなって、
映画美学校」というものになっていたが、
暗くなっていた。
ミニシアターがどんどんなくなっている。

41歳で自死した佐藤泰志という作家の本を映画化。
海炭市という架空の街(モデルは函館市)で暮らす人々の
日常と悲哀を映画化している。

人々の日常は、どことなくつながっている。
それも個々のストーリーと何となく重ね合わせることで、
物語を重層的なものとしている。

そして、その登場人物のそれぞれが、
何らかの「喪失感」を負っている。
兄を亡くした妹。
飼い猫が逃げた老婆。
家族の絆を失った男。
信用が崩れた社長。
自信がない若者。

それぞれが、さびしい食卓を起点に叙景を描いている。
その食卓を供にするのが、テレビであり、
リフレインのように、同じニュースが流れる。

路面電車の中で居合わせるそれぞれの登場人物が、
行き先定かでない、未来を想起させる。
しかし、立ち退きにあらがう老婆の元に
飼い猫は戻り、生きることのしぶとさや力強さも同時に訴えかける。

静かな映画ではあるが、どことなく心の奥に突き刺さる、
冷たいけれど、ジリジリ痛みだしそうな、良い映画だった。