花鳥風月記

流れる水に文字を書く

柏木博 『デザインの教科書』

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講談社現代新書。2011年9月刊。
奇しくも、同じ大学の同僚(であろう)原研哉も10月に
岩波新書を出しているので、一緒に買って読んでいる人も多いだろう。

今の時代に、なぜデザイナーの本が出るのか。
それは、デザインが単なるファッションを云々するものだけではなく、
「問題解決の方法論」を考えるものでもあるからだ。
そして、曖昧模糊な言辞を弄す政治家や経済学者の言葉よりも、
分かりやすく問題を分析し、対処の手段を明示する。
それが正解かどうかは危うい部分もあるかもしれないが、
その中で生まれる「創作」作業が何らかの「協働」作業となっていくのだと思う。

この本では、「デザインとは何か」ということを平易な言葉で綴っている。
若干専門的な内容もあり、その点は少し退屈を覚えるかもしれないが、
一番注目を引いたのが、「デザインの処方」の項にある、
「残りの90パーセントの人たちのためのデザイン」展の紹介。
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いわゆる産業先進国の九十五パーセントのデザイナーたちは、
世界中の一〇パーセントの豊かな顧客のためにデザインをしている。
そして、デザインにおける革命とは、残りの九〇パーセントの人々に
手をさしのべることなのだという。乗り物のエンジニアたちは、
世界中の多くの人々が中古品の自転車を買うことを夢見ている中で、
モダンな自動車のエレガントな形をつくることにかかずらっているわけだ。
                         (本書98~99ページ)
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そして、写真では、飲み水を汲みに行く子供のための「Qドラム」の紹介がある。

デザインとはまた、専門家の一方的な制作ではなく、使い手(当事者)との
視点が欠かせないことを指摘している。

デザインという観点でしっかりと考えたい人には、
読みやすい本ではないだろうか。