花鳥風月記

流れる水に文字を書く

原研哉 『日本のデザイン』

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(以下は柏木博『デザインの教科書』で書いた文章の焼き直し)
岩波新書。2011年10月刊。
奇しくも、同じ大学の同僚(であろう)柏木博も9月に
講談社現代新書を出しているので、一緒に買って読んでいる人も多いだろう。

今の時代に、なぜデザイナーの本が出るのか。
それは、デザインが単なるファッションを云々するものだけではなく、
「問題解決の方法論」を考えるものでもあるからだ。
そして、曖昧模糊な言辞を弄す政治家や経済学者の言葉よりも、
分かりやすく問題を分析し、対処の手段を明示する。
それが正解かどうかは危うい部分もあるかもしれないが、
その中で生まれる「創作」作業が何らかの「協働」作業となっていくのだと思う。

原研哉氏は、常に注目される仕事・デザインの中心にいる。
そのひとつひとつの企画・進行過程を明らかにしてゆくことによって、
その企画の狙いや方法論についての洞察力を垣間見ることができる。
そして実践の中での言葉だからこそ、伝わりやすい。

美意識を資源として考察している。
従来の日本が持っている「繊細」「丁寧」「緻密」「簡潔」といった
価値体系が、従来の価値観に取って代わる日本の再生へのきっかけと
なるのではないか、と述べている。
「世界は美意識で競い合ってこそ豊かになる(8ページ)」は示唆に富む。

日本の将来像については、以前読んだ藻谷浩介『デフレの正体』に
通じるものを感じた。
美術と銀行。畑は違うものの、あえて共通項を考えるならば、
理論に拠ることなく、実践や実際の中から考え、見出しているといえるだろう。

日本の将来像が気になる人には好著だと思う。