花鳥風月記

流れる水に文字を書く

日本国憲法百景・再び 番外編 2012年憲法記念日社説を読む

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例年のことだが、憲法記念日の新聞社説を読み比べてみる。
今回はGW中仕事ということもあり、今になって読んでいる。
地方紙まで読む時間がないので、大手紙のみとなる。
一社ずつ、所感を…。

朝日新聞、あきまへん。
「われら子孫のために」と銘打った社説は、
世代間格差やひとり親世帯など従来の「中流家庭」からの
変容と従来制度の限界を指摘している。
壮年層の身分を守るため?若者の雇用の抑制(正社員でなく非正規雇用)が
社会の体力を奪っている、との指摘。ま、よくある指摘だが…。
気になったのは、会社や家庭の差し出す「傘」云々の話。
傘は当然、入れる人を選ぶ。そしてある種の「パターナリズム」が含まれる。
社会を良くする考え方としては、適切とは思えない。
今まで言われた「セーフティ・ネット」のような考えと、なぜ変わってしまったのか…。
ま、それだけ政府がアテにならんということかもしれないが…。
ルールでなく、情緒に訴えることで、「論」としては成り立っていないのが、あきまへん。

毎日新聞
「国のかたちを考える」シリーズの5弾目らしい。(他は読まず)
2000年に発足した憲法調査会、そして2007年の国民投票法まで
憲法をめぐる動きをまとめている。
当初リーダーシップを取った自民党が下野したり、
さまざまな政変・経済事件・自然災害によって
憲法を論じる機会すらなくなっていることが分かる。
今思えば、少し前まで日本は「平和」だったんだなあ、と…(苦笑)
最近の意味不明な「維新」を唱える大阪市長まで触れつつ、
従来からの姿勢「論憲」をさらに深めるべし、と結ぶ。
経緯を追う、ということは、それまでに目立った動きがないということの
裏返しなのかもしれない。

読売新聞、ああ。
初手から破綻している。
「…内外に多くの懸案を抱えている」
「国家のあり方が問われているからこそ、基本に戻りたい」
といながらも、なんで
与野党憲法改正論議を深め、あるべき国家像を追及すべきだ」なのか。
基本に戻るなら、「現行憲法を遵守すること」ではないだろうか。
このくだりで、「偉い人に」阿(おもね)っている筆者が思い浮かぶ。
あなた、ホントは書きたくないんでしょ、て…(苦笑)。
ここまで自民党寄り、というのも「赤旗」のようだなあ、と。
最後に「一票の格差」に触れたところは、
筆者なりの知性と立場の「保身」なのだろうなあ、と。

産経新聞
5月3日ということで、各紙面に憲法特集、勿論改憲特集が満載。
社説(主張)では、今までとブレずに、改憲の必要性を主張している。
気になったのは、最近の諸問題に対しての解決の方法。
「主張」にそって解釈すると「さ、ドンパチやりなさい」と言っている(苦笑)。
それこそ相手の思うツボ、と思えなくもない。
諸問題の解決が、弾丸やミサイルの一発で解決できるのか。
そもそもの問題が、いまなお残っている。

日経新聞
ここ最近では珍しく、憲法について論じている。
それだけ日本経済の危機が切迫しているということだろうか。
改憲をいうものの、すべてを改めるというのではなく「増改築」という。
まず取り掛かるのが96条の改正事項の改正。
「3分の2」を「過半数」に改正しようというもの。
これならば、過半数さえあれば、という政権与党が軽々と改正を連発できる(苦笑)。
「増改築」でいうなら、エレベーターを設置しようという考えだろう。
さすれば、金閣寺も一晩にして、「泥の寺」にもなれるだろう。
むしろ、くすんだ金箔を今一度輝かせることに意味があるのだと思うのだが…。
「…国民は真に血みどろの苦心をした」という言葉を引用していたが、
なぜその苦心を覆すような改憲の動きが、出来てからずっと続くのか
最後の締めのことばを筆者に投げ返してみたい。

東京新聞
一面から、憲法特集になっている。
13条と25条をとりあげ、社説では25条を中心に書かれている。
視点が天下国家からではなく、
震災のがれき処理が10%程度という宮城・岩手などの生活の問題や、
雇用後3年間で、失業または雇用に至らない大学・専門学校生が50%超という
教育の問題を取り上げている。
生活者の視点であることに好感を持ちつつも、
その対処で必要なものまでは踏み込めていない。
そこが少し残念な気がする。
無理して書いたら、きっと朝日のようになってしまうかもしれないが…。

総じて、今年の憲法記念日社説からは、
各社共通になるような、大きなテーマはないので、
各社の色が出やすかったと言える。
色がないところは、何かテーマを見出して書こうとしていたが、
それすら弊害があるところは、結局、何を書こうとしたのか
分からないようなものもあった。

テーマとしては、
ここ何年かの憲法をめぐる流れを詳述し(毎日)
生活・教育の問題を取り上げ(朝日・東京)
憲法改正の方法を論じ(読売・日経)
国防を語る(産経)といった感じになった。

話のつまみとしては、
小選挙区の「0増5減」という制度改革や
自民党憲法改正草案(多分にメディア対策だが…)
などが使われた。

そして、「現行の憲法を活用しよう」という声は、一社もなかった。
これもまた流行なのかもしれない。