花鳥風月記

流れる水に文字を書く

愚短想(263) 鯉のぼりのエール

―本日は、ひと仕事終えた鯉のぼりさんにお越しいただきました。お疲れ様でした。
鯉:疲れたっていっても、こっちは風に靡(なび)いているだけだから…。

―今年は、雨が続いてからの、快晴でしたね。
鯉:もともとは水の中にいるもんだから、雨は悪くないんだけど、やっぱ空に映えないね。
  今日の晴れなんかは、まさに「水を得た魚」だったよ。水じゃないんだけどな(笑)。

―昔は「屋根より高い」と唄われていましたが、最近ではなかなか見ないですね。
鯉:もう住宅事情から言って、無理でしょ。俺達が泳げるのは広い庭がある屋敷だから。
  マンションでも、最近の一軒家も狭くてどうにもならないし。
  なぐさみ程度の同類が泳いでるよ。ほんと「たいやき君」だな。

―子供たちの反応は変わりましたか?
鯉:鯉のぼり自体が珍しくなってんじゃないのかな。
  俺たちは遠くから見られてナンボだけど、最近の子は真下に来るんだね。
  来て見上げたところで、魚の腹見たって、景気のいいもんじゃないんだけどな。

―東京の空はいかがですか?
鯉:ちょっと前に比べて、空気は澄んでる気がするよ。
  もっとも不景気だからかもしれないけど。
  ただ、俺達も、その、放射能なんかは分からないから怖いんだよね。

―やっぱり影響ありますか?
鯉:魚って、目の敵のように処分されるんだよ。
  随分昔には、「原爆マグロ」っていって、大量に放棄されたしな。
  いつ「原発鯉のぼり」って言われっか、不安で不安で…。
  基本、アウトドアだから。

―最近のお仕事の不安はなんですか。
鯉:やっぱり「おひとり様」かな。
  最近じゃ家族揃って泳げるような豪勢な家が少ないからな…。
  鯉のぼりの世界も「無縁社会」になってるんだよ。
  うちらは、水の清濁ではなくて、空気の清濁をあわせ飲むんだけど、
  空気の清濁よりも、最近は「軽重」の方が気になって…。

―今の社会にひとこと、お願いします。
鯉:空気は決して悪くねえんだ。けど重いんよ。
  そのせいかみんなどよーんとして、下向いちゃってるんよね。それも子供がね。
  もう日がな携帯やらゲームやらに目を奪われちまって…。
  おんなじ空気でも、下向いて吸うのと、胸をそらせて吸うんじゃ、味がちがうんだよ。
  勿論、味覚じゃないよ、気分だよ。
  「おーい、見てくれ!」ってアピッてるけど、基本、俺達無口だからな…。

―今日はありがとうございました。
                      (インタビュアー:うどうゆみこ)