花鳥風月記

流れる水に文字を書く

希望の国

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銀座のシネスイッチにて。
映画の日で、1,000円で観られた。

ヒミズ」に続けて、東日本大震災をテーマに制作した。
自身の著作にあったが、映画を作る際に、被災地へ行き、
様々な人から話を聞く。そしてストーリーを作り上げ、
その先を創作する、という手法だそうだ。

だから、この映画に随所に垣間見られるものは、
事実に基づくものがあり、フィクションでありながらリアリティがある。

物語は、架空の地、長島県(福島・広島・長崎を合成したらしい)で、
福島の原発に続いて、大震災と爆発事故があった、という設定。

主人公の小野泰彦(夏八木勲)は認知症の妻(大谷直子)と、
息子夫婦とで牛舎を営み、平穏な日々を過ごしていたが、
原発事故をきっかけに、庭先にバリケードを作られ、避難を迫られる。

息子夫婦を避難させつつ、生まれ育った土地を離れようとしない。
認知症の妻は「帰ろうよ」という言葉を発しつつも、主人公はそれを優しく包む。

世間の状況は、福島の時と同様、何ら進歩もなく、
ひたすら重大な情報は隠匿されたままで、
妊娠した息子の妻は、放射に対して神経質になり、
周囲の目を気にせずに、防護服を着て日常を過ごす。

向かいの家の家族は、息子の恋人の実家が津波に流され、
指定区域内にされながらも、入って家族の痕跡を探す。

やがて、主人公の夫妻に強制退去の知らせが来る。
手塩にかけて育てた牛を自らの手で殺めながら、
「帰ろうよ」という妻の言葉を聴き、愛を確かめながら
「帰る」という設定。

ヒミズ」と違い、何かを励ます、という意味ではない。
自身の著作にあるとおり、「大きな問いかけ」であった。

感情の抑制の利いた台詞が多かったが、例外的に印象にのこったものがあった。
息子の「原発のチクショウ!」というのがあった。
言葉としては稚拙で、もっと抱えているべきものがあるだろうと思ったが、
これが恐らく、福島の人たちが持っていた「本当の感情」のように思えた。
だから、あのシーンは、胸に迫るものを感じた。

小さな幸せすら奪う。
そんな原発事故の中で、果たして「希望」はあるのか。
映画の最後に出てきた、野太いタイトルは、そういう問いかけではなかろうか。