花鳥風月記

流れる水に文字を書く

菖蒲

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岩波ホールにて。
アンジェイ・ワイダの作品。
カティンの森」の後に作られたようだ。
「静謐」という言葉がぴったりの映画。

とにかく「音」が少ない。
自然の豊かさや美しさに包まれた人間の時代を描いている。
それは、生命の豊かさでもあり、同時に「死」とも隣り合わせである、
ということが不意に伝わってくる映画となっている。

もともとの小説「菖蒲」を映画(ドラマ)基底としつつも、
主演女優(クリスティナ・ヤンダ)が夫と死別したことによる、
内的な語りかけ(モノローグ)と
現に撮影している女優とワイダを取り囲む「現実」が
複雑に交差している。

場面転換というより、意識の転換という感じで、
映画を理解するには、やや注意してみることが大切だ。

主演女優は、かつてワイダの「大理石の男」や「鉄の男」に出演した、
ポーランドでは大女優らしい。そういえば、観てないなあ…。
きっと日本では、吉永小百合のような存在なのだろう。

ストーリーは、余命いくばくもない医者の妻(ヤンダ)が
ふとしたきっかけで、ある若者を戦乱で亡くした2人の息子に重ねあわせ、
追憶と恋慕が合いまみえるような感情を持ったことから始まる。
夏を前に、祭りで使う菖蒲を川向うに取ってくるよう、その若者にお願いし、
それを取っている最中におとずれた不幸に対しての重層的な感情の交差を
描いている。

老境を迎えた監督だからこそ撮れる、美しい作品だった。