花鳥風月記

流れる水に文字を書く

コマンダンテ

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世界史の教科書で太字で表示されつつも、唯一、生存している人物と考えると
もはやカストロしかいない。彼は国民から愛称で「フィデル」と呼ばれるが、
あらたまった時には「コマンダンテ(司令官)」と呼ばれる。

オリバー・ストーンが2002年にスペインのTV局で30時間にわたるインタビューを
もとに構成されたドキュメンタリー映画カストロはいつでもやめられる条件で受けたが、
本人からは一切の削除を求めなかった、とのこと。アメリカでは上映拒否されたらしい。
インタビューは今から5年前。健康問題もあり、第一線からは距離を置いているものの、
映画に映る熱狂的な国民の支持は瞠目に値する。そんなシーンではカストロよりも
オリバー・ストーンの方が顔を緩ませている。

オリバー・ストーンも、ベトナム戦争に2度出征し、負傷し、勲章を受けた経歴がある。
ベトナムで、キューバ人がアメリカ兵に対するリンチに加わったかどうかを問い詰める
シーンもあった。しかし、カストロは一切の曇りもなく、否定する。
神を信じない・カウンセラーに頼らない。欧米、特にアメリカ人の想定する人間像からは
超越したカストロの個性は、「最後の帝国」からは恐れられ、ラテンアメリカ諸国からは慕われる。
キューバの町並みは美しく、また経済封鎖の副作用として、本当に年代モノの古い車が街中を走る。
それが、さらに情緒を醸し出して、良い。
単なる老政治家の回顧録ではない、「現在」も映し出す興味深いドキュメンタリーだった。