花鳥風月記

流れる水に文字を書く

愚短想(11) 万年筆考

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万年筆を持ち始めたのは中学生の頃だった。
学研の「マイコーチ」を購入時の付録に付いてきた。
カートリッジ式の万年筆は、新鮮で、よく使っていたが、いつの間にかなくなっていた。
次は、大学入学時に父親から貰った。
「大学生なら万年筆くらい持っておけ」ということで18金のペン先のを貰う。
上記2つはパイロット製。
他にウォーターマンの故障品も貰ったが、使えなかった。
アルバイトで塾で働き始めてから、自分で買うことになった。
バイト先の人が使いやすそうに使っていたのが、印象に残った。

神田に「金ペン堂」という店があり、有名人もよく来るらしい。
この店の万年筆は買った日から書きやすいように、店主が一本ごとペン先を調整している。
だから、原則「試し書き」は必要ない。

そこでラミー社のサファリを購入した。今ではもうない「西ドイツ製」だ。
自分は店主に「試し書き」を求めた。当然、店主は必要ない、と言われたが、
「ペン字の太さを見たい」とのことで、「試し書き」を許してもらった。
確かに流れるように書ける。いっぺんに気に入った。
店主いわく「ペン先は一生に近いくらいに使えるが、きっと軸がもたないと思う」
買った万年筆は三千円程度のものだったが、自分にとっては懐刀のように毎日身につけていた。
以来、万年筆に対しては、数こそ多く持つつもりはないが、「必要な一本」を意識するようになった。

購入してからも、何度か足を運び、「一生もの」の万年筆を物色していた。
仕事で、パソコンを使い始めてから、万年筆を使う機会が減っていった。
久々に使おうとしたら、インクを補給しても、書けなくなってしまった。
金ペン堂の店主が言うには、しばらく使わないうちに、インクが固まって詰まってしまった、
とのこと。修理をするより買い換えた方がいい、と言われた。

どこかで失くさないように、といつも肌身につけていたはずが、思ってもみない別れ方に
なってしまった。17年の付き合いだった。ペン先を見て、よくつかってたね、と店主は
労ってくれた。

次に買い求めたのは、「一生もの」で決心したペリカン製の万年筆。やや太字にしたため、
書きやすさもそうだが、インクがよく出る。細字と迷ったが、今までどおり、太いものにした。
「今度は最低でも30年は使ってね。その間に不具合があったら修理するから」と店主に言われる。
店主は恐らく70を超えてるんではないかと思ったが、その約束は守って欲しい、と思った。