花鳥風月記

流れる水に文字を書く

『沖縄密約 「情報犯罪」と日米同盟』 西山太吉(岩波新書)

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「外務省機密漏洩事件」―これもある程度作られた「官製」の表記かもしれないが、―
その事件の渦中にあった人物が30余年にわたる沈黙を破り、沖縄密約の核心に迫る労作。

30余年という月日が、その当時の生々しい個人史から解放され、事実を丹念に積み上げている。
その中で、沖縄の返還交渉が、いかに、政治家個人の見栄と虚像に形づくられてきたのか、というのが、
いやというほど、分かる。時を経て密約の存在を明かした、外務省の元高級官僚が出ても、
政府は密約の否定を崩さない。そんな今の政治状況にも警告を発している。

「監視のないところに巣食うのは、腐敗と偏向である。(177ページ)」という言葉は重い。

そして、単なる政治批判にとどまらず、そこにいた、新聞・テレビといった報道体制や、
日本人の国民性についても、触れている。だが、この部分は、もう分析の限界というか、
新書での限界のようなもので、もっと様々な視点を包括的に論じるだけの土壌が欲しいところだ。

先日読んだ『官僚とメディア』と合わせ、今までの、そして今の政治とメディアを知るには
良書ではないだろうか。