花鳥風月記

流れる水に文字を書く

『イラク ―狼の谷―』

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本日最終日、とのことで、銀座シネパトスへ行く。
この映画館のすごいところは、道路の下にあること、並びの居酒屋や揚げ物の匂いが漂うこと、
そして館内に地下鉄の轟音が響くことである。古くからある映画館だが、
座席は新しいもので、飲み物・ポップコーン・荷物・傘などが効率よく収められるようになっていた。

さて、この映画の前振りとして、「反米」ということもあり、金曜(花金、とは言うまい)なのに
客層は、それなりの方々、といったら分かるだろうか…。

ちなみにこれはトルコ映画である。トルコのTVドラマで「狼の谷」というシリーズが好評で、
その映画版、とのこと。その設定でイラク北部でのストーリーになっている。
トルコの将校が、フードを頭から被せられてアメリカ軍に連行される辱めを受け、それが原因で
自殺した、というところから、話が始まる。イラクで、クルド人・アラブ人・トルコ人
アメリカの一ブローカーによって牛耳られている状況から、主人公がその敵をやっつけて行くという
展開になる。いわゆる「娯楽要素」も含んだ勧善懲悪の映画だが、確かに、アメリカを徹底的に
悪者に仕立てている。その反響はヨーロッパでも大きかったようだが、普通にアメリカの映画でも
その逆は頻繁に行われているので、そんなに目くじら立てなくてもいいような気がする。
(村上由見子の『ハリウッド100年のアラブ』を参照)
ただ、この映画のなかで、少なくとも、今までのイラクアフガニスタンで起こした米軍の蛮行を
彷彿とさせた箇所もあり、その糾弾に近いメッセージが、トルコ国内で史上最大の観客動員数に
なったのではないか、と思う。やはり、見方が違えば、感じ方も当然違う。

但し、この映画の中でも、自爆テロや捕虜となった民間人の公開処刑に対する戒めのメッセージを
伝えている。また、思想・信条的な指導者(ここでは「導師」と表記されていた)が語る言葉にも
重みがある。先のテロを戒める、ということ以外に、米軍によって焼け出された人たちに対する
施し(ほどこし)を与えるところでは、従者にむかって、嫌な顔をせずに接するように、と言ったあと、
「忍耐は屈服することではない」と背中越しに言い、振り返って「それは闘いだ」というシーンは
多くの観客の心を掴んだのだろう。(いいけど、ちょっと見え見え…)

細かいところでは、映画に出ていた日本車がトヨタ・日産・いすゞとバランス良く出ていたので、
これは作り手の配慮なのだろうか、ということも感じた。

ハリウッド映画に毒されている・染まっている人には一服の清涼剤・劇薬という映画ではないだろうか。