花鳥風月記

流れる水に文字を書く

日本国憲法百景 (7)

「私」を表現するには
普段何気なしに使っているハンコ。専らシャチハタが多いが、
思えば、銀行印、実印、三文判、自作の角印など、色々ある。
ハンコの起源は5000年前のメソポタミアと言われている。
エジプト、ギリシャ、ローマを経てヨーロッパへと伝わり、シルクロードを経て、
トルコ、ペルシャ、インド、そして中国に伝わる。
日本では、江戸時代以前は「花押(かおう)」といって草書体のサインが使われ、
江戸時代以降は、ハンコが使われ、身分を問わず、広く普及した。
なぜ、ハンコなのか。きっと立派な諸説はあるかと思うが、
「私」をどのように「正しく」かつ「格調高く」表現するかどうか、
ということが主眼だったのではないか、と思う。
文書をたてに、いろいろと軋轢が生じないよう、自分が何者であるかを、
先ず間違えないようにすること、そしてその「私」が極力、立派であることを示したい、
という思いが、何気なく潜んでいると思う。
中には、「ハンコ負け」と思うようなものもある。

人は文章であっても、話や歌であっても、表現力には力量が出てしまう。
これは如何ともしがたい。
そこで、最後は「綴じ込み」の瞬間、つまりは、「どう見せるか」
という部分に力が入ってしまう。
ハンコの格調や声の大きさ、身なりに最後の虚勢を頼みとする。
人は本質的には平等ではないかもしれないが、その間隙を埋める努力の跡が
そこにはある。

第六条 天皇は、国会の指名に基いて、内閣総理大臣を任命する。
2 天皇は、内閣の指名に基いて、最高裁判所の長たる裁判官を任命する。