花鳥風月記

流れる水に文字を書く

金平茂紀『テレビニュースは終わらない』

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著者は、TBSの記者。
ソ連崩壊の時にモスクワ支局長、
NEWS23の編集長、
02~05年まで、ワシントン支局長を経て、現在、報道局長。
NEWS23の時のメールマガジン以来、金平氏の発信しているブログを見ている。
非常に参考になることが多く、批評の切れ味も鋭い。
少しやんちゃな50台、といったところか…。

今回は、特にテレビメディアの抱える問題点を手際よくまとめて、論じている。
現場の立場とは、少し距離を置いて、また、逆にワシントンにいる間の日本の雰囲気を
的確に判断してゆこうという視点が、参考になる。

特に、現状のメディアに蔓延する「セキュリティ化」に対し、警鐘を鳴らしている。
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「安全」を優先するとは「危険」を排除することだ。「危険」を表す信号は、他と異なってい
ること、多数者とは別個の少数派であること、異端であることなどとされる。「危険」を排除
したいメディアの立ち位置は、少数者よりは多数者を、弱者よりは強者の側を優先することに
なりかねない。この傾向が、近年の日本社会の急激な階層分化=格差社会の先鋭化とあいまっ
て、ますますメディアが、マイノリティ(弱者・少数派)よりもマジョリティ(強者・多数派)
利益を代弁する流れになることを私はおそれる。急速な勢いで「セキュリティ化」が進むこと
は、以上のようにマイノリティが排除され、マジョリティ(たとえば現実の形態としての政権
与党の権力というものがある)に寄り添うメディアが形成されることになる。
                                   (本書162ページ)
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現場にいながら、求むべき姿と現実との違いに懊悩していることもあるかもしれない。
最後の結びは、かつて読んだ、マックス=ウェーバーの『職業としての政治』を思い出させた。


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自分が世間に対して捧げようとするものに比べて、現実の世の中が―自分の立場からみて―
どんなに愚かであり卑俗であっても、断じて挫けない人間。どんな事態に直面しても
「それにもかかわらず!(デンノッホ!)」と言い切る自信のある人間。そういう人間だけが、
政治への「天職(ベルーフ)」を持つ。
                           (『職業としての政治』岩波文庫版)
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かつて、本多勝一も、このウェーバーの言葉を借りて、ジャーナリズムを語っていた。
いつの時代も「志」というものが、職業と、結果としての「仕事」を高める試金石なのかもしれない。
巻末の米原万里との対談は、米原氏の快刀乱麻ぶりがよく伺えた。