花鳥風月記

流れる水に文字を書く

松永和紀 『メディア・バイアス』

イメージ 1

まずは、この本のタイトルが勿体無い。
副題の「あやしい健康情報とニセ科学」にした方が本文と合っている。
もっというなら「あやしい健康情報(番組)とニセ科学(者)」なのだが。
もっとも、最近のメディア批判にあわせて売ったほうが良い、という判断もあるのだろう。

著者は、農芸化学を学び、京大の院をでて、毎日新聞に入社、10年後フリーとなって、
「食」に関する本を執筆している。
この本では、いわゆる「あるある」問題を取り上げ、健康や科学にかんするメディア報道が
いかにいい加減であるか、ということを細かく伝えている。
メディア報道に振り回されるな、という意味では、「バイアス」も関係ある。
最近流行りのフード・ファディズムにも言及し、報道に対する過剰な反応を戒め、
また、現代のライフスタイルが必ずしも全否定されるものでもないことを歴史的に捉え、
また、最近注目を浴びているバイオマス(バイオエタノール)についても世界経済に視野を広げて
正確に論じている。

当初から、メディア批判論として買ったわけではなかったので、
参考になったことは期待どおりだった。
もっと早く読み終えるはずが、ある一文で、ひっかかってしまった。
……………………………………………………………………………………………………………
 私には、報道関係者の心理はよく分かります。私は、環境ホルモン問題が盛んに報道され
ていた九八年当時、新聞社で編集製作の仕事に携わっていました。新聞紙面の見出しやレイ
アウトを考える役回りです。九九年四月に退社しましたので、環境ホルモン取材に直接かか
わることはありませんでした。
 しかし、もし渦中にいたらどうしたでしょうか。「危ない」と煽る研究者に日参し、情報
をもらい、得々として記事化していたのではないでしょうか。ほかの研究者の話を聞いて情
報を吟味していたのでは、他社とのトクダネ争いに勝てないからです。おそらく何の疑問も
なく、「危ない」記事を書き続けたでしょう。            (本書87ページ)
……………………………………………………………………………………………………………
この文面からすると、10年勤めた新聞記者のなかで、最後はいわゆる「整理部」に
異動した、ということになる。「整理部」は実際に現場に行かない部署でもあるので、
異動した人によっては「現場失格」のような烙印をおされるようで不本意に思うらしい。
確かに、専門性を持って、フリーの科学ジャーナリストで活躍しているようだが、
上記の文章を読んで、何か「志の低さ」に読む気分が萎えてしまった。
せっかく、新聞紙面に書ける「チャンス」や「機会」がありながら、周りの環境のせいにして
自ら書くことを「放棄」してしまう、というか、自らの職を「否定」してしまうことが、
半ば失望に感じた。前に読んだ金平茂紀とは対照的な印象を持った。
今、フリーでやっていることの大変さを最終章で述べているが、
ならば、なぜ毎日新聞に残らなかったのか。
勿論、会社に残ったとしても、書きたいことが書けないから「飛び出した」ということも
あるかと思うが、自分の職もまっとう出来なかった人間が、今更にメディア批判、というのも
「後ろめたさ」はないのだろうか、と勘ぐってしまう。

いわゆる「ホンモノ」になるには、相当度の覚悟と「志の高さ」がいる。
確かに、学ぶ内容の多い本であったが、少し足元がぐらついている印象が
読後感として残った。