花鳥風月記

流れる水に文字を書く

君の涙ドナウに流れ

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有楽町シネカノン2丁目にて。
有楽町イトシアに新しくできた映画館。
元のシネカノンの場所に近い。
ただ、狭いテナントに無理に2スクリーンをいれたせいか、
待ち合わせにしては、ロビーが狭く、椅子も無い。
20分前に来たならば、20分間立ちっ放しになる。
ある意味、殿様商売的、というか、時間を潰したければ階下の店で
カネを落とせ、というような発想が見え隠れして嫌な感じだった。
売っているものもいちいちが高いし。

映画は1956年の「ハンガリー動乱」を元にしたストーリー。
創作の話ではあるが、ソ連支配下ハンガリーの実情や、
オリンピックの水球での金メダル獲得などの史実と交え、
リアリティのあるストーリー展開をしている。

主人公カルチは、水球での花形選手。
ソ連の悪口ですら、秘密警察に呼ばれ、肝を冷やすことから、話は始まる。
やがて恋人になるヴィキは、両親を秘密警察に殺された過去及び、
両親を救うという条件で、身体を差し出し、裏切られた過去を持つ。
彼女は全てを失いながら、祖国の自主独立をかけ闘う。

学生のデモから発した運動はやがて数万人にも及ぶ群集が、国会を取り巻き、
そのうねりによって、市街戦は激化、一時はソ連軍の撤退を勝ち得た。
しかし、それも単なる「振り」でしかなく、カルチを乗せたミュンヘン行きの
バスとすれ違うように、再び戦車が首都ブダペストを包囲した。

祖国の威信を金メダルで掴んだカルチと、
最後は囚われ、仲間の密告を拒否して処刑に向かうヴィキの
対照的だが、同じ悲しみに包まれる運命を映画では描き上げている。

印象的なシーンは、国会を取り巻いたシーンで、電気が消され、真っ暗になったところで、
人々が手に持っていた新聞や紙に火をつけ、その明かりが一つ、また一つと広がり、
電気よりも明るい「光の海」ができたところだった。
同じような話を伊藤千尋氏より、聞いたことがある。
1989年、「東欧革命」と呼ばれた時期、チェコプラハで、
人々が、大統領府を取り囲み、数万人の人々が一斉に手袋を外し、
ピースサインをした。氷点下になる気温で、手はみるみるうちに赤くなる。
その赤くなる様子が、一つ一つ「花が咲いた」ような光景に見えた、とのこと。
(正確な記憶ではないが、本にもなっているので、そのうち訂正する)

市民の持つ「強さ」と「脆さ」、国家権力の「強さ」と「非情さ」が
浮き彫りとなった映画だった。50年という時間は歴史としても、
まだ生々しい。今回は、史実を丹念に問い直し、
今一度、その歴史を見つめる意欲作と思う。

昨日みた「サラエボの花」のような風景が、あと40年たって
こういった作品を生み出すことが出来るか、「歴史は急ぐ」。