花鳥風月記

流れる水に文字を書く

山崎ナオコーラ 『カツラ美容室別室』

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高円寺にある桂孝蔵が経営する「カツラ美容室別室」での
出会いをきっかけに、話が展開する。
表題の期待どおり、桂孝蔵はカツラをかぶっている。
話の場面場面によって、カツラを替えているようだが、
文章上では、そこに面白さが浮かんでこない。

27歳の主人公佐藤淳之介が、店で知り合った同い年の樺山エリコとの
微妙な距離感を感じつつ、1年間の心の交わりを綴っている。

時間の流れに「間延び」を感じたり、
それが不思議に主人公と同じ感覚になっていることに気づく。
いろいろ観念的な思惟もあり、なかなか面白い。
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  ストローというものは一体なんの発明なのだろう。舌を伸ばしたくなった人が作っ
 たのだろうか。人間はなんでも伸ばそうとする生き物だ。目は眼鏡で、耳は電話で、
 足は車で、どこまでも伸びる。オレはストローの蛇腹の部分を目一杯引っ張ってみ
 た。                              (31ページ)
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やっぱり、髪を伸ばすのは「カツラ」ということだろうか。
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  段ボールの断面に出来ている穴の、ひとつひとつに寂しさが詰まっているのが見え
 る。夜中に、細長い虫のような寂しさが、その穴からニョロリと出てきそうだ。
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ここの表現は結構好き。確かに、段ボールの断面には、吸い込まれる魅力がある。

今回も、決して「カツラ」ネタを笑うことなく、
また、スピード感あるエキセントリックな展開が無いにもかかわらず、
結構「読ませる」内容があった。それが不思議だ。