花鳥風月記

流れる水に文字を書く

萩原雅紀 『ダム』『ダム2』

イメージ 1

前々から気になっていた写真集を衝動買いする。
人間社会(特に為政者)の作る巨大建築のなかで、現代にもその系譜が
受け継がれているのがダムである。
ある意味で、ダムを見て楽しむ人たちのなかでは、ピラミッドや東京タワーと
同列の思いで見る人もいるだろう。

無論、この写真集には、その造形美や様式美といったビジュアルな観点と、
一つ一つの違いや、放流の雄大さなど、マニア向けの「是」が存在する。
ただ、こういった巨大建築物には、
「都市と地方」
「土建資本と政治」
「治水と水没集落」
「大企業と季節労働者
「強制連行・強制労働」
に代表される
「格差」
「政治腐敗」
「環境破壊」
「地域社会の解体」
「構造的暴力」
が少なからず存在する。

単なるものを「愛でる(めでる)」という視点ではすまされない歴史もある。
著者もその辺りはある程度の理解はあるようだが、
写真集の性格からいって、あえてそういった問題に触れてはいない。
北海道の二風谷ダムなどの解説はあまりにもさらりとしすぎている。
ダムが出来てしまえば万事解決、というわけでもない。
逆に熊本の荒瀬ダムの廃止については懐疑的なコメントもある。

自分自身、ダムの様式美には関心があり、買ったわけだが、
それを見つめる視点は、あくまで複眼でありたい。
ダムの作られた経緯や歴史は想像以上に分厚いものだと思う。
勿論、この写真集の「軽さ」からいって、期待はできないが、
それらを見聞きして書くことも、ダム好きにとっては大事なことではあるまいか。