花鳥風月記

流れる水に文字を書く

船、山にのぼる

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渋谷ユーロスペースにて。
広島県の北部の小さな町にダムが建設された。
建設の是非をめぐっては反対闘争も激しく、
住民側の建設計画受け入れ可否の投票では、
僅か1票差というものだった。

ストーリーは、ダムを作るにあたって、
それを住民がどのように受け入れるか、
単なる強制移住だけではなく、
人間社会の文化やつながり、そして楽しさを
どう作り上げて行くか、から始まる。

官公庁の旗振り、というわけではなく、
PHプロジェクトというデザイン事務所の
小さな努力からやがて町が一体となるような
うねりとなる。

ダムを作る際に、「試験湛水」として、
最大限まで水を貯め、水位を上げる。
そのタイミングを利用して、
ダムに沈み・伐採される木で船を作り、
小高い山に乗せるというもの。

発想はそんなに難しいものではないが、
実行が困難を極める。
12年かかったこのプロジェクトにおいて、
実施側の粘り強さと、住民側の暖かさが
成功には不可欠であったことは言うまでもない。
住民側は、いわゆる「お仕着せ」ではない、
今まで、木や自然に育ってきたことを大事にする
プロジェクトだからこそ、暖かかった。

何度も流れる優しいメロディに涙腺がゆるくなりそうになる。
派手な展開はないけれど、不思議な感動を覚える。
それは、変わりゆく「季節」と「町」と「船」が、
人間のDNAに含まれる「優しさ」を呼び起こし、
何か感動せずにはいられない気持ちにさせる。

老木「えみき」を移植するさいに、
おばあちゃんに近いおばちゃんが
「爺さん、頑張って生きてね!」といって土をかけるシーン、
きました…