花鳥風月記

流れる水に文字を書く

アレイダ・マルチ 『わが夫チェ・ゲバラ』

イメージ 1

副題は「愛と革命の追憶」。2008年、朝日新聞出版から刊行。

今年の初めに、この本について話を聞いたことがあった。
ゲバラ夫人は今も健在で、しかしながら長い間公式の場に出ていない。
また、今年になって初めての著作が出て、その日本語版が朝日新聞から出る。
その日本語版の序文には、「日本の特攻精神は素晴らしい」と賛辞を贈っていたので、
翻訳・編集に苦心している、と。

そういったことを念頭に読んでみると、
「特攻精神云々」は、要するに米国の帝国主義的な存在に立ち向かう
精神的なことであり、特に不要な神経を使うことではない、と思った。

伝説的な人物の最も至近距離にいた人物による詳述、ということで、
関心が高いようである。恐らくは映画か何かを作ることを念頭に企画されたようだが、
確かに事実は小説よりも奇なり、といった感じで様々なエピソードが盛り込まれている。
個人史的な記述なので、個人名の一人ひとりを理解して読んでいるわけではなかったが、
かえって事実を峻厳に書き連ねるよりかは、イメージが膨らんだ。

なによりもキューバ革命のさなかに
人間として・女性として・母として、そして闘士としての
アレイダがいきいきと描写され、
その背中を包み込むようなチェ(ゲバラ)の優しさが目立った。

伝統的な社会の中で、女性が革命闘争に参加することの困難さを書いたところや
はじめてチェに会ったときの想い出が
身体にテープで巻きつけたおカネを早く剥したい、といったところは
映画にしたら面白いエピソードなのだろうなあ、と思った。

社会の発展と仕事の充実、そして家庭の幸せが必ずしもシンクロしないことにも悩み、
チェがやがてキューバを離れて行くときには、耐え難い哀しみを持ち、
また、一時帰国して再び離れるときには、老人に扮装し、子どもに分からないように
別れのひとときを過ごす場面は、巷間にはびこるチェの勇姿とは対照を成す。
チェという人間的な匂いを感じることもでき、かつさらに関心が高くなる本でもある。