花鳥風月記

流れる水に文字を書く

『ダナエ』 藤原伊織

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サスペンスものにさほど関心があるわけではないのだが、
藤原伊織の本に関しては、良く読んでいる。
主人公の設定がヒロイックであるものの、何か影を持つ
ちょっと不幸な中年、といったところはワンパターンなのだが、
なぜか水戸黄門のようなお決まりの展開で、事が進んでいくことに
若干の安心感とスリルを感じている。ある意味、楽しみの共犯関係というべきか。
さまざまな仕掛けが、わりと時事的で、元電通マンらしさも伺える。
自分が読んだ作品では
『テロリストのパラソル』『ひまわりの祝祭』『てのひらの闇』は
読み応えもあり、面白い。代表3部作、といった感じ。
  ※『手のひらの闇』はTV東京でドラマ化されたが、
   主人公が舘ひろし、というのが重すぎて、少しがっかりだった。
   もっと無名な俳優でもっとチープにやったほうが
   (それこそVシネマレベル)面白かったのでは、と思った。
『蚊トンボ白鬚の冒険』は発想自体は面白いが、何か変なマンガでも読んで
影響されたのか、と思うほど、他の作品と比べ奇異な印象を持つ。
シリウスの道』も良かったが、少しパターンが決まりすぎたので、
逆にこちらの期待が大きくなってしまっていた感がある。
さて、最近出た短編集『ダナエ』は、先の『雪が降る』と同様、
短編という設定の割には時間の重厚感があって面白い。ただ、長編に
慣れていると「もっと読みたい」という印象も残ってしまう。
健康状態も懸念されるが、寡作でもあるので、もっと読みたいなあ、
と思いながら、本屋の棚を眺めている。