花鳥風月記

流れる水に文字を書く

荻原浩 『ママの狙撃銃』

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前回『噂』が結構面白かったので、最近文庫化されたのを買って読む。

米国での素性をひた隠しにして、平凡な幸せを手にした主婦が、
過去に引きずられるかのように、スナイパーに手を染めてしまう。
かつて感じた興奮・後悔・そして幻覚。
小さな家庭のちょっとした渦が、彼女を、想像を超えた行動に駆り立てる。
過去の話と現在の話が、対照的な心象風景を描き、
読み手にも分かりやすく繋いでいた。

スナイパーとしての所作も、読んでいくうちに
ハードボイルド然とした世界に引き込まれてゆく。

しかし、とるにたらない、くだらない家庭風景とのギャップが面白く、
また、そのギャップがかするように重なる瞬間、
母としての愛情の強さと、スナイパーとしての本当の「強さ」が
非現実的な情景を想像させて、胸がすく。

最後は、その二つの強さが瓦解して、危うくはなるものの、
前回も感じたような、どこか能天気な絶望を背負い込みながら終わる。

仕掛けは、『噂』ほどではなかったが、充分に楽しんで読めた。佳作。