花鳥風月記

流れる水に文字を書く

日本国憲法百景 (74)

初冬の鈴虫

秋が深まった。
たまに浴びる陽射しは、ほの温かさを含むものの、
親水公園の用水路には、沿道を彩る色が薄れ、
枯葉が幾重にも堰き止められる。
用務員が、それを浚(さら)う。鴨が水底の苔を漁る。
水面を這うアメンボは、いつの間にか姿を消した。

しかし、夜は鈴虫の音がまだ響く。
往時の強さはないものの、しんとした肌寒い夜の静寂を
決して鋭利ではない突起物のようなもので、剔抉(てっけつ)する。

あと少しかな、あと少しかな。
日々歩く遊歩道の中で、そのタイムリミットを値踏みする。

もう決して暑くはならない。
冬という彼らのいない世界に着実に向っている。
例外はない。故に儚(はかな)い。

儚さはものの情趣を呼び起こす。
けっして時間が巻き戻されることがないからこそ、
人としての生と重なり、共感と情感が生まれる。
さればこそ、人はその一刹那の情景に思いを馳せ、
心に刻み、慈(いつく)しむ。

予定調和は人としての理(ことわり)。
それを乱すことはなく、
仮にそれが崩れたら、愚かさや醜さが浮き彫りとなる。


政治の世界では、季節外れの鈴虫がまだ蠢(うごめ)いている。


第七十五条 国務大臣は、その在任中、内閣総理大臣の同意がなければ、
      訴追されない。但し、これがため、訴追の権利は害されない。