花鳥風月記

流れる水に文字を書く

山崎ナオコーラ 『手』

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今月は、多忙のため、本は恐らくこの1冊しか読めないであろう。

ちょっと前に買っておいて、忘れていた。
部屋の片付けの際に見つかり、早速読む。
3時間ほどで読み終わる。

タイトルにもなっている「手」は、25歳のごく普通のOLが
ごく普通のおじさんが愛(め)でるであろう「少女」の逆をいく。
つまり、「オジサンを愛でる」ことで、日々の中に静かな快楽を見いだす。

仕事はつまらなく、そして無機質を装うような接点のなか、
オジサンの人目には気づかれない姿態・醜態を密かに
自分の作ったサイトで愛でる。
同時並行で、同年代の男とも、カッコ(「」)つきの関係を持ちながら、
そのまま等速直線のような生活を営んでいる。
決して何らかの破綻があったとしても、それはそれとして受け流す。
逆にそれに一喜一憂する男の姿を見ることにある種の醒めた楽しみを感じる。

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世間でよくあるように、愛情とは、広がるものでは決してなく、移行するものなのだ。
(本書14ページ)
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妹が生まれてからの父への疎外感と憎悪を「冷静な」姿で包み隠しながらも、
そのエネルギーが、この小説の底流になっている。

ナオコーラの寸鉄に富む内容で、面白い。
いやあ、この本を真に受けると、人間不信になるなあ、オジサン1年生としては…。

ちなみに他に「笑うお姫様」「わけもなく走りたくなる」「お父さん大好き」
という3つの短編がある。
それぞれが個性的だが、中には何かに触発されたような(「笑うお姫様」)
印象の文章が垣間見られた。