花鳥風月記

流れる水に文字を書く

前田司郎 『夏の水の半魚人』

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三島由紀夫賞受賞作、とのこと。

小学5年生の魚彦が主人公で、その小さいながらも、
大人にもひけをとらない「掟」の中を渡り歩く厳しさを
におわせながら、とめどない日常を描き出している。

今までの文体―自己思考的な―からは、若干セーブして、
リズム感のある文章であったと思う。

本人の出自である品川・五反田を舞台に、
時代も同時代性を手がかりに書いている。

ただ、同時代性でいくなら、気になる箇所があった。

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去年、消費税というのが導入されて100円のお菓子は103円になった。
(中略)
今田はお母さんとお父さんと後楽園に巨人対ヤクルトを見に行くと言っていた。
(本書63ページ)
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消費税は1989年4月に導入されて当初は3%だった。
当時、魚市場でアルバイトしていたこともあり、
その日の帳場の混乱は聞いたことがある。

なので、野球を見に行ったのは1990年ということになり、
その頃はもう、東京ドームだった。(1988年から)

小説であり、フィクションである、といえばそれまでだが、
同時代性を共感させるなら、この部分は頂けない。

確かに、読みながら当時の自分の色々な部分が接点として蘇った。
例えば、その東京ドームでの思い出では、
長渕剛のコンサート警備で10時間近く立ちっ放しで、
最後は歩けなくなり、自宅最寄りの駅から姉に車で迎えに来てもらったが、
免許とりたて、ほぼペーパードライバーの姉の運転は、
ライブよりスリル感があった。
夜だというのに、ライトも点灯させなかったし…。

当時は塾でもアルバイトをしていたので、丁度主人公の子どもと
同年代も子どもと接していたことになる。
そうか、あの頃の子達か…等と思ってみる。

そう思ってみると、最近、小学生の顔を見ていないなあ、と思った。
まあ、当たり前といったら当たり前かもしれないが、
ふと近所の子どもに目を向けると、
変わらないのかなあ、と思う反面、少し老けたんじゃないかなあ、
と気になったりした。

いろいろと想いを巡らすには、面白い文章ではあった。