花鳥風月記

流れる水に文字を書く

菅 正広 『マイクロファイナンス―貧困と戦う「驚異の金融」』

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中公新書
バングラディッシュグラミン銀行とユヌス総裁がノーベル平和賞を受けて以来、
マイクロファイナンス(以前は、マイクロ金融とかpoverty bankとも言われていた)の
知名度は上がっていった。
しかしながら、読みやすい本というのは、なかなか出なかった。

それは、マイクロファイナンスが、「南」の金融システム、
という誤解もあったのだろう。
2007年に出た藤井良典『NPO金融』(岩波新書)あたりから、
それは、「南」のものだけではない、ということが分かり始めた。

本書は、貧困に打ち克つシステムとして、単なる金融システムではなく、
人間の良心、というか真摯な可能性を峻厳に見極めた上での
無担保低利子融資を行い、貧困からの脱却を誘(いざな)い、
強いては、地域社会の復興をも目指す、という壮大なしかし、小さな試みになる。

本書の最大の特色は、今まで巷間に流布された、様々なマイクロファイナンスの状況を
綺麗に整理していることだ。
図や表、グラフに至るまで、非常に分かりやすい。
マイクロファイナンスの入門書には、最適な本といえる。

また、人間社会に必要な「もらわないこと」経済的な自立についても触れている。
それは、経済的な自立を支援することが、かえって社会保障費の無意味な増加に
歯止めをかけることでもある。

提案・提言は、ご出身もあってか、どことなく官僚風で、
やや温もりがないかもしれないが、「感じた」ことを
形にして教えてもらうには良書であった。