花鳥風月記

流れる水に文字を書く

パリ20区、僕たちのクラス

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岩波ホールにて。
第61回カンヌ映画祭(恐らく2009年)のパルムドール受賞。
上映はまだここだけだからか、平日14時の回でも、結構席が埋まっている。

原題は「壁の内で:Entre les murs」。
パリの中でも、移民の多い下町地域の公立学校の1年を追った映画。
最初勘違いしそうになるが、ドキュメンタリーではない。
主人公は、原作者でもあるフランソワ・ベコドー。
生徒役は、実際の生徒が「演じている」。全くの素人。
しかしながら、本当に自分の姿をさらけだしているかのような錯覚を感じた。
毎週水曜日にワークショップを催し、1年かけて撮影を行った。

人権宣言発祥の地であり、「自由・平等・博愛」の精神の国でありつつも、
社会階層の厳然たる事実がある。北アフリカやトルコ系の移民が多く、
おカネのある家庭は、いつの間にか私立中学へ行ってしまう。
公立中学は、いつの間にか所得層の低く、人種の多様な「るつぼ」
悪く言うと「吹きだまり」になってしまっている。

それでも、教師たちの情熱はある部分までは溢れていて、
そのエネルギーに圧巻される。
同時に、スパッと決めてしまうと、結構ドライなところもお国柄か…。

生徒たちも、自己主張が強い。
制服はなく、服装も様々だが、
関心ごとが、どことなく画一的に思えた。
自己紹介の趣味のラップ、というのが、なんかもう判を押したようで…。
これは、先進国の所得の低い層であればこそ、なのだろうか…。
※残念ながら、プログラムで服装の多様性で個性のある、
と評価した精神科医がいたが、それは「老人」ゆえの限界だと思った。

ともあれ、フランス版「3年B組金八先生」とも思えたが、
違う部分は、生徒がとにかく「元気」なこと。
現場の先生のエネルギーに屈しない、そんな力を潜めている。
と同時に、ある部分での信頼感はあるようで、
その辺が今の日本との違いなのかなあ、と思ったりした。

また、学校を取り巻くシステムがガッチリとしているため、
先生だけが負担を被(こうむ)るのではないことが際立った。
また、その後の進学・就職といった身分を決めるシステムは
かなり厳しいものなのだろう、と思った。

恐らくそれは、教育という制度を与えられたものではなく
「勝ち取った」という歴史があり、その意識が空気となって、
その「壁の内」に充満しているのだろう。
勿論、往時の思想がそのまま、というより、時を経ると、
得てして形骸化するが、その思想の高さと、現実のギャップに教師が懊悩し、
教育の理念と浮かばれない現実社会とのギャップに生徒が苦悩しているのだろう。

1年間の勉強が終了した後、
「何も学んでない、でも就職コースはイヤ」と話しかけた生徒の言葉が、
教育の理想をもう一度、ハンマーで砕いているように思えた。