花鳥風月記

流れる水に文字を書く

日本国憲法百景・再び (25)

向上及び増進…


世間では、ボーナスが上がり、景気も少し上向き、との話がある。
その反面で、ギリシアに続く債務破綻の恐れも喧伝され、
事業仕分けやら、消費税増税やら、無駄を排し、無理を押し通そうとして、
そのしっぺ返しがきている今日この頃ではないだろうか。

甘い言葉と厳しい現実を見つつ、将来はきっと何か明るいものがあるだろう、
そんな淡い期待も、どうやら、若い人を中心に、なくなっているような気がする。

「良くなる」という感覚が乏しいのではないか、という気がする。
最初から、ある程度のものが与えられると―それは本当に小さい頃から―
いち早く、精神の成熟の前に、いっぱしの消費者になってしまう。
幼い頃からの損得勘定、そして物資に満たされた生活は、
それでもあくなき物欲をもとめ、精神を鼓舞させるため、
「常軌を逸する」ことが、何がしかの「快楽」になってしまっているのではないか。

猟奇的な事件が巷間を賑わす。
確かにデータを見ると犯罪件数が激増、というわけではないが、
それが象徴する意味というのが、きっと時代を見据える「切り口」でもある。

「向上」や「増進」を今の若い人にどうやって感じてもらうか。
どちらかというと、その反対の方向に舵を切っているような不安もある。

「何もない」時代にしたためられたこの文章は、今のような時代を想定していただろうか。
もしくは、現代の社会において、既得権益を守ることに汲々としている「オトナ世代」が
自分たちの富を再分配できるような倫理感を持つことができるだろうか。

文言は古いのではない、普遍的だからこそ、難しい。


第二十五条 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
    2 国は、すべての生活部面について、社会福祉社会保障及び公衆衛生
      の向上及び増進に努めなければならない。