花鳥風月記

流れる水に文字を書く

老人と海

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銀座のシネパトスにて。

1990年作品、20年ぶりの公開、ということ。
1990年と聞くと、「少し前」という印象だが、
20年と言われると、結構前だなあ、と感じた。

当時は、松方弘樹だっただろうか、
レジャーボートに、歯医者の施術台のようなところに寄っかかり、
豪華な設備で、大きなカジキマグロを釣るテレビ番組がブームだったような気がする。

今回は、そういったものとは全く次元の違う、
「生きる」ことの意味を追ったドキュメンタリーだった。

82歳の海人(うみんちゅ)の糸数繁さんが、小さな船(サバニ)に乗って、
巨大なカジキマグロと格闘する姿を追う。

良質なドキュメンタリーの特徴として、余計な解説やナレーションがない。
そして、その地域の暮らしや風土をしっかりと描いている。

カジキマグロがあがるまでの一年を与那国島の暮らしと重ね合わせている。
不漁の時の助け合い・ハーリー祭や金比羅祭といった中での地域のつながりや、
老・壮・青・幼のそれぞれの年代を描き出している。

力のある船や若者ですら、カジキマグロに対するとき、油断ができない。
引き上げる直前に銛で、カジキマグロを刺したとき、最後の暴れで、
銛のワイヤーが足に引っかかるようなシーンにもあったように、命がけでもある。

それでも、一攫千金や釣った後の「手応え」が一生モノの魅力なのかもしれない。

小さな船、老いた漁師が、170キロのカジキマグロを釣り上げる。
その勇姿に、港の子どもがひっついてくる。
まさにヒーローなのだなあ、と。

この映画が完成後に、糸数さんは、海で帰らぬ人になったようで、
製作者側も、カジキマグロを釣ることを勧めていたことに
幾ばくかの罪悪感があったようである。

しかし、この映画を撮ることによって、「命を貰う」漁というものが何であるかを
教えてもらった気がする。