花鳥風月記

流れる水に文字を書く

川上未映子 『すべて真夜中の恋人たち』

イメージ 1

本を読む時間がなかなか取れず、越年してしまう。

最初の1ページを読んだだけで、川上の世界は広がる。
それは常に声を上げて読むという、川上独自の音感と文体が
その最初の1ページに現れる。
たった1ページというのに、背筋がゾクゾクとした。

入江冬子という34歳のフリーの校閲者の
平坦な、それでいてセンシティブな日常を描く。
何もないというわけではないけれど、
何も選ばなかったという猜疑心。

対極的な編集者石川聖との交わりと葛藤。
三束という壮年との淡い恋心。
その恋心も、「ヘブン」のように
どことなく残酷な心象風景が織り交ざる。

切なさといえば、あっさりとしてしまう。
それよりも、川上が持つ相変わらずの
観念ぐるぐる、息つく暇のない思考の語り口、
ひたすら言葉の奔流に乗る木の葉のような感覚でページを繰った。

やはり、川上は素晴らしい。