花鳥風月記

流れる水に文字を書く

愚短想(254) 鬼のつぶやき

―えーっ本日は節分を終えた鬼(推定一千歳)においで頂いてます。
―節分、お疲れ様でした。
鬼:いやあ、毎年のことだからねえ。
  この日のために日頃トレーニングしてっから…。

―鬼さんは、いつもどう過ごしてるんですか。
鬼:いたって平和だよ。自分たちで食いもんこしらえて、
  自給自足みたいなもんだよ。
  ずいぶん前にカール・マルクスとかいうやつがきて、
  「これが理想的な社会だ」とかなんかぬかしやがって、
  風体もなかなかだったから、「なんなら赤鬼でもなるか」って聞いたら、
  一目散に逃げてったよ。(笑)

―今年は、どんな節分でした?
鬼:うーん、そうねえ…。けっこう仕事が減ったかな。
  最近は、海苔巻みてえなもんを口にくわえて見上げた人間が多くて、
  最初見たときゃ、自衛隊の新手の広告かと思ったよ…。

―どの辺を回られたんですか。
鬼:えーっと、東京から品川あたりの山手線沿線ね。
  新橋あたりも、とんとお呼ばれが減ってね。
  品川では、SONYさんに行ったんだけど、
  外人の社長さんが元気なくてね…。
  帽子かぶった似たような奴がいたんだけど、
  良く見たら、マイケル・ムーアだったんだよ…。
  そんで副社長さんが豆をビュンビュン投げてきて、痛いったらなんの…。
  そんなに強く投げなくってもいいようなもんだけど。

―同業の方はどうだったんですか?
鬼:毎年、永田町に行っては、景気づけに各党にやってもらったんだけど、
  今年は、民主党さんにきいたら、「小沢と蓮舫で間に合ってる」って
  言われちまって。自民党は、だれもやりたがらなくてねえ。
  ついでにマルクスつながりで共産党にも行ったんだけど、
  「うちは、とっくに関係ありません」だってよ。世知辛いねえ…。

―鬼さんから見た、この国はどうですか。
鬼:まあー、毎年変わってるっていやあ、変わってるんかもしらんが、
  一人ひとりはそんなに変わんないかなあ、と思うんよ。
  でも、さっきの副社長じゃないけど、加減を知らないよねえ。
  加減、といやあ、昔、桃太郎ってやつにさんざんやられたなあ。

―桃太郎、ですか。
鬼:あいつこそ、この世の「鬼」だよ。
  エサで釣った動物に、さんざ痛めつけられて、
  コツコツためた財宝をごっそりやられたからね…。

―今でも恨んでるんですか?
鬼:いや、そんなことないんだよ。
  鬼っていったってねえ、それは人の心に潜むもんが
  俺らになってるだけだから。
  人があっての鬼、鬼があっての人っつうことだから。

―だから、毎年来てくれるんですね。
鬼:そうよ!豆を投げて幸せになれると思ってるんだから、
  人って都合がいいもんだよ!
  でも、そんな弱味があるから、俺たちがいるわけで…。
  桃太郎なんか、毎年要らないけど、俺たちは要るでしょ。

―確かにそうですね。(笑)
鬼:人と鬼とは、運命共同体、切っても切れない。
  まあ、これからも仲良くやっていきましょうや…。

―ま、今日はこんなところです。

(インタビュアー:ちくしてつや 翻訳:とだなつこ)