花鳥風月記

流れる水に文字を書く

愚短想(280) 女子の丸刈りについて

アイドルグループの一員が交際報道で、
当人が丸刈り姿で動画サイトの中で「謝罪」していた。
自分で刈ったのだろうか、所々刈り残しがある姿が痛々しい。

20歳そこらの子なのだから、交際なんて自然なことではないかなあ、
と思いつつも「恋愛禁止」という「掟」があるらしい。

「掟」―ある種の暴力的で高圧的な組織の中で守られるもの。
恐らく「分かっていた」からこそ、その破行が明るみになった時に恐怖し、
わが身を罰し、守りたいからこそ、頭を丸めたのだろう。

「ファッション」という意味合いから外してみると、
女子の丸刈りには「何かを捨てる・奪われる」という意味ある。
それも髪以外の何か大切なものという含意もある。
これが今までの社会が育んできた「掟」だった。

映像では自らといいながら、そうせざるを得ない圧を感じたのかもしれない。
そういった力で頭を丸めるというシーンは
戦争に絡んだ映画や写真で見た記憶がある。
「戦争協力者」として密通していたり、身体を売っていたりした女性が
大勢の中、坊主となって罵声を浴びたり、放置される。
表現方法としてサディスティックな側面を強調したものかもしれないが、
見ている方も、鼻にツーンと感じる痛みを覚える。

今回のことは、大方の人にはどうでも良いことかと思うし、
まさか自分がそんなことを、とやかく言う気もなかったが、
何か危険な空気を感じた。

まだ大人とも言い切れないような若者を
「掟」という中に放り出すのはどういうことなんだろう。
「社会人」として責任を持て、ということなのかもしれないが、
所々に「交換」なり「代償」といったものがちらついてくる。

それは、守られた人々が、守られたフィールドの中から許容する範囲で
育まれ、称揚された「アイドル」という存在があり、
その立場が「人気=ランキング=総選挙」の中で
常に守られていない状況で、必死で健気な姿をみて
(今は「ガチ」という言葉が一般化されているが)
自分では得ることができない(なんせ守られたところだから)
感覚を味わって興奮している、という図式がある。

その関係をお互いに理解し「利用している」からこそ
今の盛り上がりがあるのだと思うし、
そこから外れたら「わかってるだろう、オマエ」的な
「掟」による制裁が待ち受けている、と思い込んでいる。
支持者も当人も「アイドル=商品」であることは織り込み済みだから。
そういった世界に勝ち続けていたり、真剣であればあるほど、
余計に追い込まれる。

だから、カワイイ子が丸刈りなんてけしからん、というよりは
そうさせた空気(「同調圧力」からさらに進んだ「特攻圧力」とでもいうのか)が恐ろしい。
それが「後輩への手本となるべき」と思い込んでいた子がそうしたのが、もっと恐ろしい。
なんとなく、脈々とした系譜になってしまったら、本当に恐ろしい。