花鳥風月記

流れる水に文字を書く

日本国憲法百景 (1)

蝉時雨。夏の心象風景を彩る。
近くの海岸公園をサイクリングする。
残暑といえども、照りつける太陽は、昼下がりであっても肌を焼き付ける。
草木は目一杯の伸張と、生き物は精一杯の主張を身体に宿す。
もう所々で、蝉の死骸が横たわり、干からびた蛙や蚯蚓(ミミズ)も道端に点在する。
人はそれも風景に織り込んで、自転車を走らせる。
夏は命の繁忙期であるが、同時に、過ぎる運命を様々な気持ちで見送る時期でもある。
戦後○○年と人が言う。それはこれから何年経とうとも同じだろう。
夏は、どんな形であっても、「命のつながり」を意識することになる。
遠い日に、同じ蝉時雨のなか、天命を全うせずに多くの命が失われた。
今を生きる人々の心象風景の中にも、蝉時雨の中で、人々の悲しみと、玉音放送と、
これからを生き抜く人々の命の源泉が感じられる。それは、当時を生きていなくとも、
蝉時雨の中の思い出が、伝えてくれる。
今の私たちには、死に接する機会が少ない。リアルな音や光や臭いが分からない。
だからこそ、「知る」だけではなく、「思う」ことが必要ではないか。
「心に刻み・思いをはせる」―かつてどこかで聞いたこのメッセージが、
蝉時雨と同調する。

日本国憲法 前文
 日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起こることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法はかかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。
 日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。
 われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。
 日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。