花鳥風月記

流れる水に文字を書く

桐野夏生『東京島』

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世界一周クルーズから一転、難破して無人島にたどりついた人間を扱った小説。
31人の男と1人の女。
狭小世界で繰り広げられる権威・権力と愛憎が渦巻く物語。

最初の印象は、無人島の「渡鬼」。
次に感じたのは『火の鳥 望郷編』。
それらがよりリアルに、汗臭く・血腥(なまぐさ)く描かれている。

無人島での時間を軸に、それまでの来し方と、
それと対置した、新しい命と新しい世界が最後に描かれている。
面白いといえば、面白い。

中でも、主人公の清子(名前自体、何か暗喩ががる)の
生と性に対する執着心が露骨で良い。
かつて丸谷才一だったか『女ざかり』という本があまりにくだらなく、
途中で読むのをやめたのがあったが、
同じ女心を描くにしても、そこで正直、筆力というよりも性別の差による
“執念深さ”が文章になって書かれているのが違いなのだろう。
それも、中年という年齢に対する「愛情」にも似たまなざしは、
きっと筆者ならでは、というものではないだろうか。

つくづくも、生命力は女性の方が強いのだろうなあ、と思った次第。