花鳥風月記

流れる水に文字を書く

愚短想(158) 宿題

宿題を忘れた。
宿題がなくなればいい、と思ったとき。
何か天変地異があって、という意識の逃避行から、
現実のツン、とした匂いが鼻につく。結局はやってた。

けど、もう取り返しがきかない宿題もあった。
そんな時は、自由になったという解放感よりも、
どこか置いてけぼりを喰らったような寂ばく間がある。
みんな行ってしまった。それを見送るだけ、というさみしさ。

長らく生きていると、そんな忘れた宿題がいくつも出てくる。
なんとなく日々の生活に追われ、記憶の奥底に眠った遠い約束も、
その瞬間にパンッと割れて出てくるようだ。
その後は、やはりツン、とした匂いと後味の悪い感じが口の奥に宿る。

久々のツン、は、無意識に触れずにいたことがやってきた。
あの時を思うと、自分への不甲斐なさや、恥ずかしさが鼻や口に充満する。
けど、逃げ込むように、忘れようと思い、忘れてしまう。
人は悲しい。