花鳥風月記

流れる水に文字を書く

辻村英之 『おいしいコーヒーの経済論』

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著者は映画『おいしいコーヒーの真実』の解説を執筆していた。
タンザニアキリマンジャロに1990年代後半より現在まで
フィールドワークを続け、各所に発表したものを再編集・再構築したのが
本書になっている。

データを取るのも困難な地域で、研究者らしい丹念な調査を活かし、
コーヒーの栽培・収穫・流通・焙煎・販売までトータルな視点で
読み進めることが出来た。
前半部がやや昔の記載で、後半のフェアトレードの部分が新しいのも、
結果論としては、うまく構成しているなあ、と感じた。
定点観測として、ルカニ村という場所を続けて書き続けていることが、
単なる研究書ではない、本の息吹きを感じる。

その意味では『ナントカ環境報告』を売り捌く、
元A新聞記者の書く上っ面のものよりもずっと良い。
(本屋でちらっと見たが、もう、どうしようもないね…)

ただ、気になったのは、原稿が横書きだったのか、
縦組みの文章で「上記・下記」と書いてあった。
文章を読むときの作法の範囲なのかどうか分からないが、
編集の工夫もあってもいいと思う。
また、縦書きの漢数字がどうしても分かりづらい。

フェアトレードも単なる企業のPRにならないように、
また、消費者も、単なる購買目的ではなく、
あくまで当地の社会変革に寄与できるような、
それはつまり「連帯」という言葉につながるのだろうが、
流れになるべき、と結んでいる。

確かに、周りには商品が溢れているが、その反面、不安もある。
安心・安全をどう自分の眼で見極めるか。
それ以上に目の前の商品に含まれる「トレーサビリティ」を産地だけでない
現地の様子をしっかりと知るべきではないか、と思う。
著者は、日本のコーヒー需要が「オシャレ」や「高級」志向に
ある程度の期待を持っているようだが、
実際には、街中の本屋でも、農業を扱った本や雑誌が増えている。
改めて「産業」、いや「生業」としての一次産業への見直しも
今後起こりうるのではなかろうか。