花鳥風月記

流れる水に文字を書く

愚短想(300) かまた賛江

これは、近い将来に起きうることである。
とある大学の入試課にかかってきた電話の風景…。

(入試課:以下、「入」)はい、入試課です。
(親)うちの子が、そちらの試験を受けて、不合格だったことに納得がいきません。
(入)わが校の試験は、判定は、公平かつ公正に行っております。
(親)とにかく、納得がいかないんです。
(入)それは、どうしてでしょうか…。
(親)うちの子は、学力診断テストはAランクだったんです。
(入)わが校では、珍しくはありませんが…。
(親)でも、全問正解した、と言ってるんです。全部できたのになぜ落ちたんですか?
(入)ご存知のとおり、Aランクであれば、点数は関係ありません。
(親)でも、聞くところによると、おたくには「S」ランクなるものがあるって聞きます。
(入)…。
(親)ネットを調べたら、学内関係者や実業家・政治家の子弟にひいきしてるって…。
(入)そういったことは応じかねます。
(親)この前だって、週刊誌の記者が調べてたでしょう!
(入)特定秘密保護法で係争中の件については、コメントを控えさせて頂きます。
(親)でも、テストは満点なのに、何がいけなかったの!面接だって問題なかったはずよ!
(入)わが校では、そういったお問い合わせに対しまして、得点開示を行っています。
   面接の点数につきましても、明確に点数をご案内致します。
(親)では、教えてください。何がいけなかったの!
(入)わが校の面接試験においては、独自開発した「人間スキャナー」を使っています。
   お辞儀の角度、着席の姿勢、発言の際の視線や発汗まで、すべて数値化しています。
(親)そんなものがあてになるの?
(入)わが校は、医学的な見地から申し上げることはできませんが、このシステムは、
   犯罪捜査で採用されているものを、独自開発しております。
(親)うちの子が犯罪者だっていうの!!!
(入)いえ、大学で学ぶもの、身辺の調査は今や不可欠となっております。
   来たるべき時代のグローバル人材は、セキュリティ面での担保が必要なのです。
(親)じゃ、うちの子は何がダメっていうの!
(入)確かに途中までは、申し分ないようですが、最終質問で、減点されているようです。
(親)いったい、どんな質問なの。
(入)わが校の建学の精神の質問です。
   ご子息は「在野の精神」とお答えになったようですが…
(親)そのとおりじゃないの?
(入)実は、昨年「来たるべき時代のヴィジョン」というのを策定し、変わったんです。
(親)何に変わったの??
(入)「学の鼎立」「内野の精神」です。
   政・財・学の三者が手を携えて、安価で馬車馬のように働く若者を育成し、
   新たな階級制度を創出し、特定のエスタブリッシュメントの繁栄を築く…。
(親)ちょっと待って!そんなこと、何も聞いてないわよ!
(入)学内関係者や実業家・政治家の子弟にしか、お伝えしていないことですから…。
(親)…(無言で電話を切る)。