花鳥風月記

流れる水に文字を書く

愚短想 (320) 永訣の朝

今朝、その姿をみた。

長らく囚われの身となって、
数週間前に、オレンジの衣を纏わされ、
跪いて、黒いナイフに前にいた。

遠い異国の地で、何があって、何を見たのか。

彼を救い出すため、何か直接的な方策はなく、
ひたすら委任と伝聞に頼るだけだった。

この間、ネットでは、様々な文字が躍った。

映像は切り貼りされ、複製され、改竄された。
そして断片化され、記号化され、
最後は「死者」という数字となった。

私たちは、様々な配慮、深謀遠慮のもと、
彼の最後を見ていない。
あまりに残酷だから、ということで…。

しかし、最後通告がなされた時、
彼が見せた無念の表情は、
あらゆる生気が抜け出たところがはっきりと見えた。

不本意な死を悟った時の表情は、
きっと忘れることはないだろう。